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  • 基町高層アパートの屋上は通常非公開です。見学をご希望の方は、アーキウォーク広島が行う見学会等の機会をご利用ください(イベント案内)。公開について管理者に問い合わせることはおやめください。
  • 基町高層アパートは現役の住宅です。見学にあたっては住民の方々のプライバシーに十分配慮し、外観であっても不用意にカメラを向けないようご注意ください。
  • 記載内容は執筆者の推測や個人的な感想を含みます。
今回は、2010年10月に行われた建築公開イベント「open! architecture HIROSHIMA 2010」の様子を中心に、基町高層アパートを紹介します。イベント当日は遠く東京からの参加者も含めて40人が集まり、皆さん熱心に見学されていました。

この作品を鑑賞するには色々と予備知識が必要なので、話が長くなってしまってますが、どうぞお付き合いください。

(※文中全編にわたって敬称略とします)

イベントの様子。(もっと詳しくはこちら

広島開基の地、基町

まず最初に基町の歴史について触れたいと思います。
基町とは”広島開基の地”という意味で、この地がかつて広島城だったことに由来します。旧広島城は西は太田川、東は白島線のやや西、南は相生通り、北は城北通りあたりまで広がっていました。
明治になると、広島城には陸軍が入り、多くの軍関係の建物が建設されましたが、これら施設群は被爆時にことごとく失われました。今でも広島城本丸には旧大本営(日清戦争時の総司令部)の基礎部分だけ残されています。
こうして広い空地となった基町は、戦後の都市計画によって西側を公園、東側を官庁街とすることが決められました。

(右の赤ラインが旧広島城、青ラインが基町高層アパートです。)

より大きな地図で bdg_motomachi を表示
しかし、終戦直後は極端に住宅が不足していたため、公園予定地であっても木造の公営住宅を建てざるをえず、また勝手に小屋を建てて住みつく人も多く、広島城の西側から相生橋にかけて木造密集住宅地が形成されました。その様子は漫画「夕凪の街」で丁寧に描かれているので、ご存じの方も多いかもしれません。

さて、広島市と広島県は、まず木造公営住宅の更新として鉄筋コンクリートの低層住宅を建てましたが、とても全体を収容するには至りません。そして計画されたのが、今回紹介する高層アパートなのです。

基町エリアに並ぶ木造公営住宅(撮影:佐々木雄一郎)

建築家 大高正人

続いては、設計を担った大高正人について。大高は前川国男(※1)の事務所の出身で、伝説的な建築デザイン運動であるメタボリズム(※2)の一員としても知られ、建築作品だけでなく都市計画にも熱心に取り組んだ建築家といえます。彼は香川県坂出市のスラムクリアランスで「人工土地」という大胆な作品を作っており、その経験を買われてこのプロジェクトに起用されたようです。

この人工土地というのがすごい作品なのでちょっと紹介します。まず大きな人工地盤を作って、その上にアパートを建て、人工地盤の下には商店街を作りますが、一部は将来に備えてスペースをあけてあります。つまり人工地盤の上と下で建物を建てたり壊したりする、都市の新陳代謝(=メタボリズム)が表現されているのです。
基町ではここまで分かりやすい表現にはなってませんが、人工地盤を多用するあたりは共通しています。

では、前置きはこのくらいにして、基町高層アパートの見学に向かいましょう。


※1: 前川国男(まえかわくにお)はル・コルビュジェに師事し、戦前から戦後の長きに渡って活躍した建築家です。丹下健三も前川事務所の出身です。
※2: メタボリズムとは新陳代謝という意味で、1960年代に展開された日本独自の建築デザイン運動です。大高のほか、黒川紀章や菊竹清訓など当時の若手建築家が中心で、急速な膨張に生物のように柔軟に対応する建築・都市のあり方を構想しました。

坂出人工土地。街そのものが二階建てです。

坂出人工土地の人工地盤上。ちゃんと車も上がってくるからスゴイ!

建築について

大高はコルビュジェ孫弟子にあたるわけで、この建築にはル・コルビュジェが設計した一連の集合住宅(ユニテ・ダビタシオン)の影響が随所に見られます。

ピロティ

1階を見ると、吹きさらしの空間になってます。これはピロティと呼ばれ、コルビュジェが提唱した「近代建築五原則」の一つです。もし1階に部屋があると向こうが見えませんから、もっとずっと狭苦しい空間になっていたはずです。丹下の平和記念資料館のピロティほどのすごい機能はありませんが、都市に高層建築を建てる作法を示しているといえます。

2層4戸で1ユニット

住宅は2フロア4戸で1つのユニットをつくり、それを積み重ねています。というわけで、エレベーターは2階ごとに止まり、上階の2戸へ行くには階段を使います。最近のマンションにはまず見られませんが、この方式には上階の部屋が広く取れる、外廊下を減らすことができるなどのメリットもあり、コルビュジェのユニテ・ダビタシオンや前川の「公団晴海高層アパート」とも共通しています。

基町高層アパートのピロティ

ユニットの概念図

屋上庭園

屋上は庭園になっていて集会室や花壇があります。実はこれもコルビュジェの「近代建築五原則」の一つなんですね。しかも屋上同士がつながっていて行き来ができるようになっています。屋上庭園は一般開放する想定でしたが現在は施錠されています。
アーキウォーク広島のイベントではこの屋上庭園を特別に公開頂いて見学しましたが、参加者の皆さんに特に好評だったのが屋上からの眺望です。基町アパートは南に行くほど低くなるように設計されているので、北端の屋上からは宮島までよく見え、ビルの屋上というよりは、山の尾根筋を歩いているような印象を受けます。

くの字型配置計画

いわゆる住宅団地では、板状の建物がずら〜っと並ぶものですが、基町高層アパートは、くねくねと屏風のように折り曲がっています。これは、中央部に大きな広場をつくりながら必要な部屋数を確保するためであり、さらに日当たりの条件が不公平にならないよう工夫したためです。

人工地盤

大高が得意とする人工地盤は中庭状の広場に置かれていて、上は庭園で下は商店街。人工地盤からデッキ介して学校にもつながっています。

屋上からの眺めはまさに絶景。

南に行くほど低くなる。

これはもはや都市

ル・コルビュジェの「ユニテ・ダビタシオン」は一つの建築作品ですが、基町高層アパートは住宅以外にも人工地盤、商店街、集会所、学校、消防署までを含む超大作であり、一つの都市というべきスケールです。街全体が(決して豪華ではありませんが)これほどしっかりとデザインされている場所は滅多にありません。ここが本作最大の魅力といえるでしょう。

アーキウォークでは今後も基町高層アパートの見学会を不定期で行っていきますので、ご興味があればぜひそちらにもご参加ください! [イベント案内]


街全体がしっかりとデザインされている。
見学ガイド
■交通 アストラムライン「城北」駅で下車、徒歩2分。紙屋町から歩くことも可能。
■周辺地図 マピオン地図
■特記事項 見学にあたっては住民の方々のプライバシーに十分配慮し、外観であっても不用意にカメラを向けないようにご注意ください。
屋上は通常非公開であり、立ち入ることはできません。
建物データ
■所在地 広島市中区基町、西白島町
■設計 大高建築設計事務所
■竣工 1972〜1976年
■構造 S、RC
■規模 [基町地区]敷地8.11ha、延床196,570m2、2964戸
[長寿園地区]敷地4.46ha、延床101,457m2、1602戸
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